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教育トレンド

いじめ認知件数が二〇万件を超える

■二〇一六年の八月、青森県の中学二年生、葛西りまさん(一三歳)がいじめを受けて自殺した問題は、青森市写真コンテストの掲載取り消し問題等も絡み、いじめ問題として全国的なニュースとなった。
痛ましい事件である。
最近でも、一〇代の男子が多勢で友人を殴り殺したりしている事件が起きている。このところ耳目をひくこのような子ども達の暴力的な人間関係、
実態はどうなっているのか。
まず、先頃発表された子供たちの問題行動の実態を概観する。
いじめの発生件数がこの二年間で増加していることが文部科学省の先頃の発表でわかった。
平成二十七年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査(問題行動調査)」結果の速報値では、小学校、中学校、高校および
特別支援学校におけるいじめの認知件数が二十二万四千五百四十件だった。

 これは前年度より三万六千四百六十八件の増加で、この増加は二年連続である。問題行動調査は、児童生徒の問題行動等について、
今後の生徒指導施策推進の参考とするため毎年行われている調査である、認知件数が二十万件を越えたのは、昭和六十年度以来初めてのことである。

■青森県ではいじめ認知件数が千件超
自殺した葛西さんは無料通信アプリのLINEで複数の同級生から悪口を言われたことを訴えていた。
青森県教育委員会がまとめた県内の「児童・生徒の問題行動調査」では、二年連続でいじめの認知件数が千件を超えている。
近年、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使ってグループで一斉に中傷するケースが後を絶たない。
電通の新人社員が自殺したケースで見聞したのだが「自殺するくらいなら転職したらどうか」という意見もあったし、“携帯のメールで
何か言われて自殺するほどのことがあるのか?”と思う人もいるかもしれないが、
筆者はネット検索により、りまさんがいじめを訴えていたLINEに掲載された文章を入手し、その深刻さに唖然とした。
昔なら、もし学校でいじめを受けていたとしても、家庭に帰れば庇護があったが、子どもを取り巻く環境は激変している。
携帯端末は、個々が相手のメールなので、逃げ場がないのである。
 LINEの一部を掲載する。
「 遺書  突然でごめんなさい。ストレスでもう生きていけそうにないです。
●が弱いのは自分自身でも分かってるし、●が悪い所もあったのは知ってるけど、流石にもう耐えられません。
(中略) 1、2年の時で●の噂流したりそれを信じたりいじめてきたやつら、自分でわかると思います。
もう、二度といじめたりしないでください。(中略)
家族へ。先立つ不幸を許してください。もう無理です。特別虐待があったわけでもない(中略) 文章めちゃくちゃでごめんなさい。
みんなに迷惑かけるし、悲しむ人も居ないかもしれないくらい生きる価値本当にないし、綺麗な死に方すらできないけど、
楽しい時もありました。
本当に13年間ありがとうございました。いつか、来世ででも●が幸せな生活をおくれる人になれるまで、さようなら。
また、会おうね。 2016年8月25日木曜日 」
ネットには、いじめた同級生の本名が羅列され、プリクラで撮影したような写真も掲載されていた。
人権無視の「キモイ」「ブス」などの言葉に加え「頼むから死んでくれ」などのメッセージが連続して複数人から届き、
グループで一斉に中傷や嫌がらせメールを届けるなどが一年以上も受けられていたことがわかってきた。
携帯のLINEは極めて簡単な情報伝達手段。それが子どもたちの間で自由自在に行き交って子どもたちの生活環境を席巻している。
本来ならば、生活規範を育成したり常識や、心を育成したりするべき時期に、彼らの行動規範が単純で拙速、うすっぺらで短絡的な
文字まがいの記号で生活が埋もれてしまっているのではないか。
■文字を書くこと
筆者は、年々、「文字を書く」代わりに「文字をタップする」行為自体が、思考することや精神の発達に変化をもたらしているのではないか
と案じてきた。昨今では、タイピングさえなく、軽くなぞって次から次へと変換文字が出てくるので、自ら思考することが必要ではなくなり、
さらにまともな文章ではなく、イラストを送信して心の表現までさえもすましているから、自分の言葉で説明したり、
相手の意見を聞いたりする能力の欠如がおき、言葉自体への愛着や思い入れが薄弱で、意識がないままに暴言を吐くようになっている。
相手がどう感じるか等の意識が全く育っていないのである。
物事を思考せず、短絡的に答えを焦り、右か左、白か黒か、を選択して、結果がでることが当然といった思考が当たり前のような子どもたちが、
生身の人間と、当たり前の人間関係を作る行動自体が難しくなっている。一日中、パソコンでゲームをしていてもその一瞬は楽しく時間が
過ぎているし対戦相手もいるのだが、対戦が終わってもその後に思考の跡ができない。
LINEで文字を誤ってタイピング間違いしたから喧嘩になったとか、一瞬で返信メールが来ないから無視している、と決めつけ
友人関係が険悪になったりとか、些細なことがいさかいの素として起きている。
葛西さんの例も、一人が悪意なる言葉を複数人にばらまき、拡散し、一方的な言いがかり、悪意の中傷、それが取りかえしのつかない事態を呼んだ。
■ いじめの態様
調査によれば、いじめは小中学校では学校の教職員等が発見する割合が高く、高校では本人からの訴え、本人の保護者からの訴えなど、
学校の教職員以外からの情報により発見されている。
 いじめの態様は、様々である。小学校では冷やかしやからかうこと、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる件数が約六割をしめ
合計九万四千件。ついで、軽くぶつかられる、叩かれる、蹴られるが約二十五%の三万九千件、仲間はずれや集団での無視が約二割などとなっている。
高校では、悪口や脅し文句、嫌なことを言われるとする回答が約六割。次点がネット上で誹謗中傷や嫌なことをされる回答が約二割だった。
「九州地方の県立高校では昨年12月以降、女子生徒の間でLINEによる中傷を繰り返す中で、書き込みがエスカレートし、『妊娠した』と嘘を書かれた生徒が退学する事態に発展した。」(産経新聞より)という報告もある。
携帯メールでは、一対一対応であるから教師や親の監視が行き届かずに気が付くととんでもないことになっていることが多く、また、ネット社会は
一度発展した内容は取り消せないほどに拡散する。
■いじめ対策
 「いじめ」という非人間的な行動は、根本的な教育指導の中で忍耐をもって教育していくことが最も効果的である。
いじめ問題を克服した事例をいくつかの学校事例でみたが、大まかに言って、1)子供たち間の指導、2)教師の指導態度、3)家庭も味方にする
の三方向が教育指導には有効である。愛知県の解消策では、これらが有効に機能していた。
具体的にはこども達に話合をさせて、「いじめ」に対する考えを書かせる、反省の時間をとる、教師がいじめを早期発見すること、
という一連の指導を与えることである。
「書かせる」ことは、自分を見つめ、事件があったらその事件の反省や経緯をしっかりと子どもの心に植え付ける役目がある。
その上で、加害の子どもの親と被害の家庭の子の親とも連携して、子どもに言い聞かせ、家庭では子どもを暖かく包む、
といった処置を継続することである。学校に対する保護者の理解と協力が、必須なのである。
これだけ進んでしまった子ども世界の変容を、急激にとどめることは不可能である。情報世界はますます子ども達に襲いかかってくるのは
止めれらはしないのであるが、子どもに基本的な精神力をつけるための三者の協力は必須である、
この当然のことを実践する忍耐が今、必要である。(了)


 


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