世界に通用する国際的大学へ-スーパーグローバル大学構想
■スーパーグローバル大学で開く日本の科学技術
日本人三人がノーベル物理学賞を受賞したニュースが日本中を喜びに包んだ。日本の学術・技能の優秀さが認められたような安堵感を持ったが、筆者は反面、危機感も募ったことだった。
青色発光ダイオード(LED)の開発で、ノーベル物理学賞を受賞した米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授の中村修二教授(六〇歳)は、研究の動機を「怒りで継続した」と表現しているのが印象的だった。
会見で話したことを要約すると以下のようであった。
中村教授は研究の原動力について青色LED開発後、当時の勤務先の日亜化学工業(徳島県)と特許を巡り訴訟に至った経緯がある。怒りを前向きなエネルギー源に転換してきたと強調し、日米の研究文化の違いに言及。米国の研究者はアメリカンドリームを追求する自由がある。研究と企業が連携した米国の研究土壌があるが日本の研究者には自由がない、日本には本当の自由がないと鋭く指摘。多様な人材の活用や研究成果の海外展開などで、日本企業がグローバル化を急ぐ必要性を訴えた、というものであった。
■閉塞感がある日本の大学
待ったなしの大学改革。日本の大学の国際競争力の向上を目的として、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進めるため、一大学に今後一〇年間、年間最大五億円の予算支援を行うスーパーフローバル大学創生支援が発表となった。
公募により、国公私立の三十七大学が選出された。大学世界レベルの教育研究を行う十三のトップ大学と国際化をけん引する二十四のグローバル大学の合計三十七大学だ。
近年の経済社会のグローバル化が進む中、我が国が今後も世界に伍して発展していくには、科学技術の大いなる発展が不可欠であるが、そのためには大学の国際競争力向上と、
多様な場でグローバル社会に活躍できる人材の育成が絶対条件だ。そのため、徹底した「大学改革」と「国際化」を断行し、我が国高等教育の国際化、ひいては国際競争力強化の実現を図らなければならない。この課題は、多くの人が痛感している問題だったが、安倍内閣の課題としても手をかけることとなったようだ。
【トップ型】(一三校)北海道▽東北▽筑波▽東京▽東京医科歯科▽東京工業▽名古屋▽京都▽大阪▽広島▽九州▽慶応義塾▽早稲田
【グローバル化牽引型】(二十四校)千葉▽東京外国語▽東京芸術▽長岡技術科学▽金沢▽豊橋技術科学▽京都工芸繊維▽奈良先端科学技術大学院▽岡山▽熊本▽国際教養▽会津▽国際基督教▽芝浦工業▽上智▽東洋▽法政▽明治▽立教▽創価▽国際▽立命館▽関西学院▽立命館アジア太平洋
■国際化を進める取り組みとは
これらの大学の使命は、世界トップレベルの大学との交流・連携を実現、加速するための新たな取組や、人事・教務システムの改革、学生のグローバル対応力育成のための体制強化など、国際化を徹底して進める、というものだ。
トップ型では、海外大学のユニット誘致による領域横断型共同カリキュラ
ムの構築、国際共同大学院の創設、優秀な教員や学生が集う環境整備、海外展開等
グローバル化牽引型では、これまでの実績を基に更に先導的試行に挑戦し、我が国社会のグローバル化を牽引する大学として支援する、というものだ。例えば、海外の大学との先駆的教育連携、大学教育のグローバル化モデルの構築、世界基準の教育展開等が取り組み例という。そのためのベースとなる要件としては、・学生及び教員の外国人比率の向上・英語による授業の拡大・成果指標の設定と徹底した情報公開の三点を上げている。
■不確実な時代を生きる
去る九月二〇日(土)、朝日新聞社主催で、「高等教育シンポジウム2014」が開催された。テーマは、「学力像の転換と大学入試改革」-新しい高大接続のあり方を考える-。
教育関係者をはじめ、学校、経済界などが多数参集した。
特別講演では、「不確実な時代の中で求められる新しい学力像」の演題で日本学術振興会理事長・中央教育審議会会長、安西祐一郎氏が講演した。その概要は、「国際化の進展、急減する生産年齢人口の中で、これからの時代には主体性、多様性、協同性が求められる。自分の目標を自分で見出して実践する主体性、背景の違う多様な人々と協議する機会が増えること、知識・技能の活用力が重要になってくる。二十年後に社会で活躍するための能力を育成することが必須だ」と述べた。
基調講演には「新しい高大接続の可能性-日本の入学者選抜は変わるのか-」
の演題で大学入試センター副所長の荒井克弘氏。氏は「高等教育は拡大し、高校の進学率は上昇した。入試は多様化して一般入試の割合が減り、AO入試、推薦入試枠が増加した。平成二十五年の教育再生会議では、二種類の達成度テストの提言をした。
次いで、プレゼンテーションが三人。テーマを「高校教育の質の確保・向上に向けた取り組みの実際と高大接続」として髙橋 基之氏(全国高等学校長協会会長)、テーマ「私立の中等教育の現状」として、清水哲雄氏(鷗友学園常務理事)、テーマを「いま高等教育に求められる入試改革」として金子元久氏(筑波大学教授・日本高等教育学会長)の各氏が実情を述べた。その後、朝日新聞論説委員各務 滋氏をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われた。ディスカッションでは、各立場から様々意見がでた。要約すると以下のようなことが論点となった。
高大接続には、高等学校がグルーバル化も含め、さらに多様化していくことに対応するために、さらに学力を高めるため、多くの大学や諸機関と連携していく必要性があると主張。「入試」ではなく、「接続」である。初等中等教育と高等教育の教育蓄積を点ではなく面でとらえるのはどうか。一過性のテストではなく①基本学力テスト②大学進学テスト③個別大学への選考、という案も出された。
現在の入試は肥大している、倍率を上げるためにバラバラで選考しているからだ。大学に入るために基礎力があるかどうか、が図れていないと指摘。大学入試は次の二〇年後には大きく変わっているだろう、と将来を予想した意見も出された。大学入試改革は、「入試改革」ではなく「教育改革」と同義であること、と深く問題提起されたシンポジウムであった。
筆者も、ノーベル賞受賞の朗報に接して誇りを感じるものであるが、これらの成果は、今から一〇年、二〇年前の基礎研究への評価であることを忘れてはいけないのだ。今度の教育の発展を決めるのは、現在の教育改革にかかっている。教育の成果は即効性がないので、目先にとらわれると、その先、修正をすることが困難になってしまう。中村教授のような世界的頭脳を育成する仕組み、そしてその逸材が安易に流出することのないような仕組みつくりは急務である。
今回、大学への支援を設け、また明確な大学入試の設計をすることが、今後の日本の教育の命運を握っている。
(了)
- 2015年04月19日
- 大学